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最高裁判所第一小法廷 昭和57年(オ)328号 判決

上告人

福井慎治

右訴訟代理人

合田昌英

被上告人

株式会社 白忠

右代表者

白尾忠三

右訴訟代理人

林武夫

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人合田昌英の上告理由第一点について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、右認定の事実関係のもとにおいて、被上告人が昭和五五年五月二一日に上告人に対し所有権移転登記手続等の義務を履行することができなくなつたのは、被上告人の責に帰することのできない事由によるものと解するのが相当であるとした原審の判断は、正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事実に基づいて原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

同第二点について

所論の点に関する原審の判断は、その説示に照らし、正当として是認することができる。論旨は、原審の認定しない事実に基づき、又は独自の見解に立つて原判決の不当をいうものであつて、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(中村治朗 団藤重光 藤﨑萬里 本山亨 谷口正孝)

上告代理人合田昌英の上告理由

第一点 原判決には、理由不備、審理不尽の違法がある。

一、原判決(原判決が引用した第一審判決を含む。以下同じ)は本件土地建物の売買に関し、上告人が昭和五五年五月二一日、額面一、二七〇万円の小切手を持参して指定場所である坂本清一司法書士事務所に赴き、被上告人に対し売買残代金の弁済の提供をしたが、被上告人は本件土地建物の引渡し及び所有権移転登記手続を履行しなかつたという事実を認定しながら、「本件土地建物は、手良村章が所有していたものであるが、昭和五四年七月金沢地方裁判所において任意競売手続に付され、昭和五五年四月八日の競売期日で白尾商事が最高競売人となり、同年同月一一日、右白尾商事に対する競落許可決定がなされたこと、」「被上告人(その代表取締役白尾忠三は同時に白尾商事の代表取締役をも兼ねていた。)は、本件土地建物を白尾商事から買い受けてこれを売却することとし、昭和五五年四月一八日、新聞紙上にその販売公告を掲載したところ、同日、上告人から買受申込みを受け、本件契約の締結に至つたこと、」「右契約当日は前示競落許可決定に対する即時抗告期間の満了日にあたり、競落代金の納付も未了であつたから、当時、本件土地建物の所有権は未だ白尾商事更には被上告人に帰属していなかつたこと、」「右契約に際しては、被上告人の営業員から上告人に対し、本件土地建物が利害関係を有しない中川和人なる者から前示競落許可決定に対する即時抗告の申立てがなされたため、以後、右申立てに対する裁判があるまで、白尾商事に対する本件土地建物の競落手続は一時中断のやむなきに至つたこと、」「右中川は即時抗告の申立書を提出したのみで、その後なんらの抗告理由を示すこともないまま、右申立ては昭和五五年五月二七日却下されたこと、その間、白尾商事は競落代金の納付ができず、本件土地建物の所有権を取得することができなかつたこと、」「その結果、被上告人としても昭和五五年五月二一日までには上告人に対し、約定どおり本件土地建物の所有権移転登記手続(及び引渡し)を履行することができなかつたこと、」の各事実を認定し、「右認定した本件契約締結の経緯及びその後の事情等を総合勘案すると、被上告人の本件不履行は、前示競落許可決定に対しなんら合理的理由のない即時抗告の申立てがされたことにより白尾商事に対する競落手続の中断を余儀なくされたことに基づくものであつて、結局、被上告人の責に帰することのできない事由によるものと解するのが相当である。」として、上告人の、被上告人の債務不履行を理由とする手付倍額償還請求、不当利得返還請求、損害賠償請求の各主張を排斥した。

二、しかしながら、原判決に理由不備、審理不尽の違法があることは以下に述べるところによつて明らかである。

1 原判決は、上告人は不動産業を営んでおり、競落の手続について精通していたと認定しているが、被上告人も不動産業を営んでおり、競落手続に精通していたものである。従つて、右事実は本件不履行が被上告人の責に帰すべき事由に該当するか否かを決定する理由にはならないものである。

2 本件問題が発生した最大の理由は、被上告人が本件土地建物の競落手続が完了していないにもかかわらず、売却したことから始まつたものであり、本来非常に危険な売買方法であるが、資金を凍結しないで右から左に物件を動かすことによつて利益を得ることができるためこのような方法をとつたものである。従つて、本件のような競落手続に関する手違いが発生し不履行となることは被上告人は当然予想していたものであり、競落手続中にもかかわらず本件土地建物を売り出したこと自体が被上告人の責に帰すべき事由の一端を形成しているものである。

3 原判決は、本件契約に際しては被上告人の営業員から上告人に対し、本件土地建物が競落手続中のものである等の説明を受け、上告人もこのことを了解していたという事実を認定しているが、右のような事実は本件不履行が被上告人の責に帰すべき事由に該当するか否かとはなんら関係のないことである。

4 原判決は本件の履行日を競落許可決定の約一か月後の昭和五五年五月二一日と定めているが、上告人において右期日までにどうしてもその履行が完了されなければならない特段の必要性が存したわけではなかつたと認定している。しかし、これは明らかに事実を無視した認定である。すなわち、上告人は本件土地建物を昭和五五年四月一八日、訴外光谷玉子に金一、五二〇万円で売買し、同日金二〇〇万円の手付金を受領済みであり、右履行日を昭和五五年五月二一日と約束していたものである。従つて、本件の履行日は上告人にとつては特段の必要性の存した重要な期日であつた。

5 原判決は、利害関係を有しない中川和人なる者から本件競落許可決定に対する即時抗告の申立がなされ、右中川は即時抗告の申立書を提出したのみで、その後なんらの抗告理由を示すこともないまま右申立は却下されたこと、右抗告の申立書は右中川の依頼により控訴人が作成したものであるとの各事実を認定しているが、即時抗告の申立に関する手続が法律上権利として認められている以上なんら問題とすべきでない。しかも、抗告申立書を上告人が作成したり、申立書に抗告理由を示さないことによつて、右申立があたかも上告人が本件契約の履行を妨害したような認定をしているが、もし右のような意図を上告人が有しているならば、上告人自らが記載し直ちに筆跡が判明するような方法をとることはなく、代筆やタイプの方法をとつたものである。

第二点 〈省略〉

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